顕微授精(ICSI)に関する説明書 micro‐fertilization

はじめに

体外受精・胚移植法という一連の治療の中で、卵子と精子を混ぜ合わせることにより受精卵を得る方法を媒精(cIVF:convensional IVF)と呼びますが、この方法では受精卵が得られない、または得られにくいケースがあります。このような時に有効となる方法が顕微授精です。
1992年にベルギーで初めての妊娠例が出て以来、多くのご夫婦が顕微授精により挙児を得ることができるようになっています。

適応(体外受精・胚移植の対象となるケース)

重度の男性不妊や受精障害(媒精で受精しない)などが顕微授精の絶対的な適応になりますが、最近ではSplit(1回の採卵で採取された卵子を2つのグループに別け、媒精と顕微授精の両方で受精を試みる方法)やRescue(媒精で受精の兆候が認められない卵子だけをディッシュから抜き出し顕微授精する方法)を行なっている施設もあります。

方法

これまで行われてきた顕微授精にはいくつか方法がありますが、近年は主にICSI法(卵細胞質内精子注入法)が行われています。これは、顕微鏡で観察しながらマイクロピペットを用いて、成熟した卵子の細胞質内に1個の精子を注入する方法です。
精子の受精能が低いあるいは卵子の質が不良の為、全く受精しない(細胞分裂を起こさない)ことがあります。また、極めて重度の男性不妊の場合、精子の状態によって治療を行えず、未受精卵の状態で凍結せざるを得ないことがあります。

治療成績

日本における治療成績(2014年)
日本産科婦人科学会、平成27年度倫理委員会 登録・調査小委員会報告より

新鮮胚を用いた治療成績(胚移植あたりの妊娠率)

  • Split (媒精と顕微授精の2本立て):24.2%
  • ICSI(顕微授精):18.9%

当院の治療実績は下記のページをご覧ください。

顕微授精の危険性

1. 遺伝的な疾患が児に伝播する可能性

通常の体外受精・胚移植では自然に淘汰選別された精子が卵細胞質内に侵入することになりますが、ICSIで卵細胞質内に注入される精子は人為的に選別された精子であるため、染色体異常を有する精子を選別し遺伝性疾患を伝播させてしまう可能性があります。
ICSIの対象となる乏精子症、精子無力症、無精子症の患者さんにおいては、精子数が少なくなればなるほど精子染色体異常の発生頻度が高くなる傾向が認められています。精子の染色体異常は乏精子症~無精子症患者さんの約7%(1~35%)に認められるため、染色体異常を有する精子を卵子に注入して男児が生まれた場合、その子どもは父親と同様に造精機能の低下した成人になる可能性があります。

2. 一卵性双胎の頻度が増加する可能性

ICSIと胚盤胞移植を組み合わせることにより、5.9~8.9%の確率で一卵性双胎が発生するとの報告があります。

代替手段

男性因子による不妊症の場合:精索静脈瘤や精管閉塞が主な不妊原因の場合、手術療法により精液所見が改善されることを期待する方法があります。

安全性

自然妊娠における先天異常児の発生率は約3%とされていますが、これは体外受精・胚移植による妊娠、そして顕微授精による妊娠においても同程度であると報告されています。
ただし安全性に関しては児の長期予後などを含め未だ明らかになっていない部分もあります。

その他

  • 治療に関して疑問が生じた際には、納得のいくまで十分な説明を行います。またカウンセリングが必要と思われた場合、あるいは患者さんが希望された場合には医師、胚培養士が個別カウンセリングを行います。
  • 当院は日本産科婦人科学会が指定する生殖補助医療登録施設となっています。これに伴い、毎年治療周期数や妊娠症例数などを学会に報告することが義務付けられていますが、治療をお受けになるご夫婦の個人情報が院外に漏れることは決してありません。また、当院における治療法や治療成績などを学会等で発表する際にも個人情報は厳格に取り扱い、確実に保護することをお約束します。